芸術と商売の不文律
「ものを作る」と一言に言った時、次に考えておきたいのは「誰が為に作るのか」です。
よくある議論で「アートとデザインの違い」があります。個人的には、アートは「自分が作りたいもの」。デザインは「社会が必要としているもの」が結論です。ですがそれらを「価値」そして「金銭」という普遍的な尺度のテーブルに並べた途端、両者は、しばしば対立の物として扱われます。本来は、どちらもニーズ(目的)が違うのですし、個々がもってる価値も違うはずです。もちろん、希少性や市場の相場、原価なども価値を決める要素です。でも、誰しもが使いやすい夢のツールと、一部のお金持ちにしか買えない著名な作家の絵を比べた時、総じて前者の価値は安く見られがちですが、プロダクトそのものより作ったデザイナーの価値は高騰したり。よくあるなんとも変な話。
俺の物は俺の物
Web制作に関して言えば、制作者が作るのは「商品」です。でも制作に携わる人の中には「作品」という言葉を使う人も少なくありません。それは、こちらの調査にもありますが、クライアントも含めた「制作者」の多くは、自分の作ったWebサイトを「自分の物」として捉えている節が強いからです。Webサイト本来の目的は、「閲覧ユーザーに意図する行動をさせる事」ですが、クライアントにしてみれば「作った、見せた、自慢した」では、Webで広報をする価値は半減以下と言って良いでしょうし、実制作者側にも同じ事が言えます。「作る事が目的化している」または「作った後はお客のものなんで関係ない」。そんな無責任な話も聞こえる始末。
後付けの価値
資本主義である以上、金銭的価値を生まない「作品」=商品になりえないプロダクトは、作り手のマスターベーションと言われてもグゥの音が出ません。正直、自分がやっているPictは、その最たる物ではありますが、逆に言えば「こちとら好きでやってんのよ」という話。個性やオリジナリティに拘る近年の風潮にノッて、好き放題しているだけなので文句を言われる筋合いはありません。自分のために作っているのですから。(そもそもで言われた事無いですが。)それに作品にも値段をつける事はできますし、欲しいという方がいればそれは立派な「商品」です。念のため。
また1つ1つは取るに足らないものでも一定量を超えると量感から価値を見出すものもあります。それはまた別のニーズだったりもするのですが、言えるのは「価値は、物や制作者が決めるのではなくニーズが決める」。これは事実と言えるでしょう。
売れてナンボの世の中
そして、一般的には、商品を「作品化」しないためにマーケティングあり、そこで得た裏付けを基に制作されます。その過程で作り手の拘りが発揮される事はありますが、大前提にあるのは「売れる事」です。数字の積み上げが全てを左右する中で、「作る事が好き」という理想を持った制作者の中には疲弊してしまっている方もいるでしょう。実際、仕事で物を作る事を辞めてしまった方も知っています。おそらくそれはアーティストタイプの制作者だったからかもしれません。「作りたいものと作らなければいけないもの」の間で自分の作家性と戦い、我慢をしてきた1つの結果。前述のカリスマデザイナー様方の、それっぽいインタビューに憧れてデザインを始めた人の中には、そんな方もいると思います。
もちろん、アートがダメという話ではありませんし、デザインをする上で作家性は重要です。ただ、作家性を前面に押し出して商売をするのは非効率だし厳しい世の中です。言うまでも無く、個々が持っている個性は大事です。大切に磨きましょう。そして社会の流れやニーズを知る事。そこから常に誰がその商品を必要としているのかを考え、イノベーションする。そのプロダクトをキラリと光らせる個性による粋な演出が、人の心を掴みかつ、作家性を保ちつつ制作で食べていく一番のコツなのかもしれません。
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